トークイベントinスナック
ホスト:園田喬し ゲスト:星野善晴
お酒やドリンクを片手に、当日上演・展示される作品の感想など、ざっくばらんに語り合いませんか? 演劇ライターの園田喬しを1日店長に、「上野湯島-池之端仲町」での取り組みやパフォーマンスに通じた星野善晴をゲストに、来店者の皆さまとの対話・交流の場をご用意致します。
夜学バー Brat
11/19[sat]
14:00-18:00
※予約不要・入退場自
第3回 アーツアンドスナック運動 『なめとこ山の熊のことならおもしろい』に寄せて
 東京の上野湯島-池之端仲町の商店街一帯を活用したアートイベント「アーツアンドスナック運動(以下 AnS)」の一環として令和4年11月に上演された演劇作品『なめとこ山の熊のことならおもしろい』(以下 『なめとこ山』)を取り上げる。これまで3回開催されたAnSにおいて私は、第1回目から企画者あるいは作家として携わってきた。今回取り上げる『なめとこ山』については、いち観客としてまたその後私が話者として参加したトークイベントのための情報収集として観劇した。

第3回目となるAnSのメインプログラムとなる本作品『なめとこ山』はもともと、福島県を拠点にしている劇団「ほしぷろ」(主宰:星善之)による作品で、福島での初演の後、第 12回せんがわ劇場演劇コンクールにて俳優賞・演出家賞を受賞した作品の再演となる。それまでAnSのコンテンツはいずれも徹底的に池之端仲町においてサイトスペシフィックな作り方をしてきており、他所の文脈で創作された作品を再演という形で上演するということの意味が掴めずにいた。宮沢賢治の作品というモチーフが既に完成された世界を有するということ、また演出である星自身の福島での生活・経験に基づいた作品であるというところに、不安を抱いていた。

ところで、第1回のAnSで、私は2人の作家にそれぞれ依頼し、インタビューを使用した映像作品の製作と、トーク形式のイベントとを開催していただいた。両者に共通するのは、上野湯島-池之端仲町というまちが、あらゆる世代・業種・国籍の人々が、時間的にも空間的にも極めて複雑に重層し、大変読み解きづらく把握しづらい(地元の誰も把握できていない) 街であることを示すものであり、その実態の片鱗を作品化してもらった。具体的には、外国人労働者たちが世代を超えて池之端仲町を自分たちの街だと深く愛する姿や、飲食店の経営者たちがそれぞれ趣のあるかつての仲町の様子を愛する一方「夜の繁華街」と形容されることになる現状との間にある複雑な心境を表現してもらった。

さて、今回の「なめとこ山」を観てみると、当初の不安は全く消え去り、まさしくこの場所で上演されるべき作品であることを強く感じた。 宮沢賢治が描こうとした、ある「場所」をめぐる自身と他者のせめぎ合い(もしくはせめぎ合ってすらいない)というモチーフは、時間を超え、福島で想起され、東京でも我々の元に迫ってくる。
「30年住んでいるのに!まだ他所者ですか!」演目中のセリフでの忘れられないひと言。これまでのAnSで見てきた、それぞれがこの街を自分の街として愛している、池之端-仲町を構成するあらゆる属性の人々の物語を見ることができた。まさにこの街の人々にこそ見られるべき作品であった。この観劇体験を通し、ある一つの芸術作品が、根源的なところで我々一人ひとりの世界に通ずることさえできていれば、時間を超え、空間を超え、私たちの生活に刺激を与える力を持っているということを改めて実感することができた。

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